『Lemonとノーベル文学賞』
2022.10.07
前回の記事で、医学生理学賞で「沖縄科学技術大学院大学(OIST)」の客員教授を務めているスバンテ・ペーボ教授が受賞されたというニュースについて触れました。そして翌日発表された物理学賞を「量子力学」の研究で受賞された3名のうち、オーストリアのウィーン大学のアントン・ツァイリンガー教授も「沖縄科学技術大学院大学(OIST)」から名誉学位を授与されているという報道がされました。二日続けて日本にゆかりのある研究者の方が受賞されたのは、明るいニュースだと思っています。
この原稿を書いているのは10月6日の午前中です。文学賞の発表は6日の夕方なので、この時点ではまだ結果がわかりません。日本人では、例年候補として名前が挙がっている村上春樹さん、ドイツを拠点に活躍している多和田葉子さん、中学入試でも出題されている小川洋子さん、などが話題になっているようです。
過去の日本人作家の受賞歴としては、1968年に川端康成さん、1994年に大江健三郎さんが受賞しており、「そろそろ、また……」というところなのですが、2017年に、イギリス国籍を取っていますが長崎出身のカズオ・イシグロさんが受賞しています。個人的には、村上春樹さんは学生時代にデビュー作である「風の歌を聴け」から愛読していますので、期待しているところではあります。
2016年のノーベル文学賞を覚えていらっしゃいますでしょうか。アメリカの歌手であるボブ・ディランさんが受賞して、大きな話題になりました。若干の著書もあるようですが、ノーベル文学賞の選考を行っているスウェーデン・アカデミーが発表した受賞理由は「偉大なるアメリカ音楽の伝統の中で新たな詩的表現を生み出した功績による」ものということでした。彼の歌の歌詞を「詩的表現」ととらえて受賞を決めたわけです。
さて、中学入試でも歌の歌詞が出題されたことがあります。米津玄師さんの有名な『Lemon』という曲の歌詞の一節が、2019年の三田国際学園中で出題されました。文章読解問題として物語文が取り上げられていて、その設問の中で「その文章の登場人物が、この曲の歌詞を聞いたときに、抱えている思いが救われるか」という内容の問題でした。
面白い問題だと感じると同時に、とても「よい問題」だと思った記憶があります。物語文の文章全体をとらえて、主人公の気持ちをしっかりと把握するとともに、歌詞を吟味して理解し、それを統合して答えるという「高いレベルの読解力」を試しているのだと思います。単に、国語のテクニック的に問題を解こうとしても、この問題には対処できないでしょう。見た目は「奇をてらった」ように見える問題ですが、「文章全体をきちんと理解する」という文章読解の基本に忠実な良問だと、個人的には思いました。
「二つの文章を理解して、関連付けて設問に答える」という問題は、最近見かけるようになってきたタイプの問題です。市川中学校の出題が、ここ二年ほど話題になっています。2021年は大問1の物語文に出てきた登場人物を、大問2の説明文にあてはめると「どのような成長段階」にあるかを答えさせる記述問題でした。2022年は、大問1(物語文)と大問2(説明文)を読んだ生徒同士の会話から、不適切なものを選ばせるという出題がされていました。
単純に「解くために文章を読む」という学習ではなく、「読んでしっかりと理解して」から問題を解く、という国語学習の基本がより必要になってくると感じています。
- 2022.10.07 『Lemonとノーベル文学賞』
- 2022.10.05 『子どもの心理を考える②』
- 2022.09.30 『子どもの心理を考える①』
- 2022.09.21 『秋』
- 2022.09.16 『「自己肯定感」と「意志力」と「精神的成長」』