『中学受験学習は、精神的成長と同時進行』
2023.03.15
中学受験は「親子の入試」「家族の入試」と言われることがあります。高校受験や大学受験と比べると、保護者の皆様が関与する部分が大きいということからだと思います。その分、保護者の方がどういう形で関与するかで、その結果も大きく変わってまいります。関わり方によっては、お子様のやる気が低下してしまったり、学習面においても無駄が多くなってしまったりする場合もあるのです。
お父様やお母様がイメージされる「受験勉強」は、多くの場合、ご自身が高校・大学受験をなさったときのものではないでしょうか。中学受験を経験された方もいらっしゃるとは思いますが、そのときの記憶はその後の受験勉強で「上書き」されてしまって、ご自身が小学生のときの学習内容や学習方法を覚えていらっしゃる方は少ないでしょう。私自身も四谷大塚に通い、中学受験を経験したのですが、そのときの記憶はあまり残っていません。早稲田アカデミーで小学生を指導するようになってから、実家に残っていた当時の「予習シリーズ」を見て、いろいろと思い出したのですが、それでも「どんな風に勉強していたか」という記憶までは曖昧です。さらに、ここ20年ほどで中学入試の出題傾向は大きく変わってきていますので、当時の「学習の記憶」が残っていたとしても、それほど役には立たなかったかもしれませんが。
保護者の皆様にまずご理解いただきたいのは、中学受験へ向けたカリキュラムはある意味「特殊」であるということです。その学齢の標準的な生徒にとっては、かなりハードルの高い学習内容です。そのレベルの学習を進める場合、「先生の教えてくれたことは何となくわかっている」としても、「いざ自分で問題を解こうとするとできない」、「自分一人の力では解ききれない」という状態がうまれます。ここで大切なのは、そのレベルの問題を「すぐに解決しようとしない」ことです。小学校での学習に慣れているお子様の場合、もしくは中学受験カリキュラムの学習の進め方を誤解されている場合、テキストやテストで出されている問題に「正解」できないと、何となくの不快感を持ってしまうことがあるはずです。ただ、その点に関しては「慣れ」ていくことも必要になります。
一方で、「できない」まま進めていったら、いつまでも「できない」ままなのではというご不安もあることでしょう。実は、その時点で「何となくわかってはいるけれど、自分ではできない」という問題は、必ずできるようになってくるものです。そこには精神的な成長・発達が大きく影響してきます。
保護者の皆様が、塾のテキストをご覧になったときに「あれ?この問題はどう解くんだろ?」と思われる問題に行き当たることがあるはずです。そこで解説を読んでみて「ああ、こう解くのか」と理解をすると、(大人であれば)同じタイプの問題は次には解けるようになっているはずです。ところが、小学生の場合はなかなかそうはいきません。この違いは「経験」であり「成長」の差だとお考えいただければ、おわかりいただけるはずです。
中学受験へ向けた学習はお子様の「精神的な成長」と同時進行だと、まずはご理解いただければと思います。 たとえば国語で出題されている文章を理解できるかどうかは、その段階での精神的な成長・発達による部分が大きく影響します。テキストでもテストでも、出てくるのはお子様の学年よりも高い学齢を対象とした文章です。その文章がきちんと読み切れるかどうかは、そこまでの読解経験とそれによって培われた「成長」が影響してくるわけです。さらに、その「成長」は、学習習慣や学習方法にも影響してきます。
中学生以降になってくれば、だんだんと「一人で勉強する」ということができるようになっていきます。もちろん小学生でも「一人」で机の前に座って問題に取り組むことはできるのですが、その瞬間に100%の集中力で頭を回転させていくというのは、小学生にとってはなかなか難しいことです。私の経験では、最難関校に合格していく小学6年生であったとしても、一人で勉強しているときは、その子の持っている力の100%は出し切れていないと思っています。たとえば、ちょっと真剣に考えれば確実にできるレベルの問題を「家でやってわからなかった」と言って質問に来る生徒がいます。「ちゃんと考えたの?もう一回ここで考えてごらん」と言って、目の前でやらせてみると、「あっ、できた!」ということも多いのです。
そこで一番大切になるのが、お子様にとって「真剣に」問題に取り組む環境を用意するということです。「真剣に」という言葉は「集中して」というように置き換えてもよいかもしれません。家庭学習においてどうすれば「真剣に」問題に取り組むか、という点を保護者の皆様にお考えいただきたいのです。ご家庭の環境やお子様のタイプによっても異なりますので、「こうすれば真剣に取り組める」という「正解」はないのですが、学習場所や学習時間をお子様に合わせてお考えいただくところからがスタートになるでしょう。一般的に小学生の場合、自室での学習よりもお父様やお母様の「目」が届く場所の方が集中できるようです。よく言われる「リビング学習」を進めていらっしゃる方が多いのもそういった理由からでしょうか。小学校の低学年時に「リビング学習」の習慣がついてしまったので、受験までそこで勉強していたというお話もよく伺います。学習時間に関しては、本当に千差万別です。朝起きてすぐに勉強をするとよく覚えられる(漢字の暗記など)というお子様もいますし、逆に朝はまったく頭が回転しなくてというお子様もいます。
さてそれでは、小学生が一番真剣に問題に取り組むのはいつでしょうか。私のイメージでは、授業中に問題を解かせているときは真剣度70%、家庭学習では50%、その程度だと思っています。家庭学習での真剣度が70%を超えるようになれば、成績は向上していくでしょう。しかし、授業や家庭学習ではそのレベルの学習であり、自分ではまだ「できない」問題が「できる」ようになるという「階段を上がる」のには不足しているのです。
小学生が100%に近い力で問題に取り組むのは、「テスト」を受けているときだと考えています。授業でも家庭学習でも真剣さが足りない一つの要因として、「依存心」が挙げられます。「できなければ先生に(お母さんやお父さんに)教えてもらえればよい」という気持ちが、小学生の中には必ずあるものです。問題を読んで少し難しいと感じたら、もう一歩踏み込めば「できる」はずなのに、そこで考えるのをやめてしまうことが多くあります。しかし、この「もう一歩」がとても大切なのです。
テストでは誰しもが「よい点数」を取りたいと思っているはずです。ただ、テストを受けている間は誰も頼ることはできません。自分の力で考えきることしか方法はないのです。「難しい」と感じた問題でも、真剣に考えてみる、その考えている瞬間にお子様は階段を一歩上っているのです。たとえ、その難しかった問題が解けなかったとしても、「真剣に考えた経験」によって、成長をしているのです。
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