四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『象は鼻が長い』

2023.04.21

「象は鼻が長い。」という文については、国語の授業で扱ってみたいと思っているものの、いままで取り上げたことがありません。その理由は、一言で言えば「生徒が混乱してしまう可能性がある」からなのです。今回の記事では取り上げてみることにしますが、お子様にお話しいただくのは避けた方がよいかもしれません。


「象は鼻が長い。」という文の主語に関する話題です。皆様はいかがお考えでしょうか、この文の主語は「象」だと思われますか、「鼻」だと思われますか。非常に簡単な文ではあるのですが、実はこの文は大正時代から文法的な論争が繰り返されていて、現時点でも明確な結論が出ていない問題なのです。歴史で邪馬台国のあった場所が「畿内説」「九州説」に分かれて議論が繰り返されているのと同じような印象を持っています。


中学受験のテキストや指導法では、主語は述語との関係性で考えさせる場合が多くあります。よく言われる「何がなんだ」「何がどうした」「何がどんなだ」という考え方です。その考え方を適用すると、この文の場合、述語が「長い」ですから、なにが「長い」のかを考えれば、当然「鼻」という主語を考えることになります。ただ、この文の本来の意味を考えると「鼻が長い」ということを説明したいわけではなく、「象の特徴は鼻が長いことである」というニュアンスになるわけですから、「鼻が長い」という主語・述語の関係だけではおかしいのではないか、という説が出てくるわけです。
実際に「何を伝えたいか」ということを考えると、この文は二つの違う言い方に言い換えられるでしょう。


①「象の鼻は長い」
 ②「象は鼻が長い(生き物である)」
「鼻」を主語と考えるのは①のニュアンスの場合です。しかし、②のニュアンスの場合には「鼻」が主語だとおかしくなるわけです。この場合は、(  )内に書かれた述語が省略されていると考えることもできそうです。


「象は鼻が長い」論争を調べてみたところ、「象は」という文節は「主題」であるという説がありました。また、「象は」が主語で、「鼻が長い」を述部ととらえるという説もありました。


いかがでしょうか。小学生に説明するのは、なかなか難しい内容ではないでしょうか。実は同じような論争を巻き起こしている文があと二つあります。一つは「僕はウナギだ。」という文です。もちろん、「吾輩は猫である」のように、「僕=ウナギ」という文意ではありません。「私はお寿司を頼むけれど、あなたはどうするの?」「僕はウナギだ」というような場合の使われ方です。この場合の主語も議論になっていました。もう一つは「こんにゃくは太らない」という文です。


この二つのケースは、(中学受験における指導に限っては)「述語の省略」と考えるのが一般的です。「僕はウナギ(を頼む)(を食べたい)」「こんにゃくは太らない(食べ物である)」と(  )の中の述語を補って考えればよいわけです。しかし、ここでも一つ問題が生じています。細かい点のように思われるかもしれませんが、「僕はウナギだ」の「だ」という助動詞です。省略されている述語の代わりに「だ」と言い切ってしまっているので、単なる「省略」とも言えないわけです。


言語学や国文法を専門的に学んできたわけではありませんが、国語という科目を指導していく中で、調べていくと面白い「謎」にたどり着くことがあります。ただ、その内容を生徒にどんな風にかみ砕いて説明するかというと、なかなかハードルが高いなぁと思うことがあります。「日本語の不思議」を深掘りするような書籍も何冊か購入してあるのですが、まだ読了しきれておりませんので、ゴールデンウィークに「まとめ読み」してみようかと思っているところです。

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