『ひらがなは何文字ある?~日本語の難しさ~』
2024.04.24
アメリカの国務省が発表した「言語習得難易度ランク」というニュースを見たことがあります。アメリカの外交官養成局の局員を対象に、習得にかかる時間順に難度ランキングが作成されています。 その中で「日本語」は最高ランクの「カテゴリー5」にランキングされています。このランクでは習得にかかる時間が「88週間=2200時間」となっていました。アメリカの外交官レベルの方でも習得にそれだけの時間がかかるわけですから、日本語は非常に難しい言語と思われているのです。同じランクに入っている言語は「アラビア語・中国語・韓国語」なのですが、「日本語」はそのなかでもさらに難しいというマーク(*)がつけられており、唯一の「カテゴリー5+」となっています。
この話を生徒にすることがあります。「日本語というのはそれだけ難しい言語なのだから、それを毎日普通に使っている君たちは、それだけでトレーニングをされていると考えていい。自信を持って日本語を使おう」などという話をするわけです。国語に対する興味を引き出すためのネタの一つです。また、入試を終えて中学校へ進学する生徒に向けても、「身に付けるのに一番難しいと言われている日本語を使いこなしているのだから、英語の学習を恐れる必要はない」というような話をすることもあります。生徒たちは「よし、英語をがんばろう」というような顔をしてくれるのですが、実はここに一つ大きな矛盾があります。お気づきの方もいらっしゃるでしょう。
上記のランキングはアメリカの外交官養成局の調査ですので、「ネイティブ」を対象とした調査ということになります。つまり、日常的に英語を使っている人にとっては、「日本語」の習得は他言語と比較をして難度が高いということです。一番習得しやすい「カテゴリー1」に入っている言語を見てみると、「ドイツ語・スペイン語・ノルウェー語・スウェーデン語・イタリア語・フランス語」などのヨーロッパ系言語が並んでいます。使われている文字などを考えても、また単語の類似性などを考えても、英語に近いイメージの言語です。言い換えれば、「英語のネイティブ」にとって「日本語」の習得が難しいということですから、「日本語のネイティブ」にとって、「英語」の習得のハードルは高いという可能性もあると考えています。
さて、外国人から見た「日本語の難しさ」を考えると、それは日本語の特徴ということにもなるのではないでしょうか。私はもちろん「言語学」の専門家ではないのですが、日本語を学んでいる外国の方と何名か親交があり、日本語の特徴について話をする機会が何度かありました。そこで聞いたことと、生徒に国語を教えている中で気がついたことなどを、今回と次回の記事でいくつか触れさせていただきたいと思います。
まず、日本語学習のスタートラインで外国人が驚くのは「文字数」の多さだそうです。英語のアルファベットは26文字で、大文字・小文字を分けても、その倍の52文字です。少し面白いのは韓国語で、ハングル語の文字数はアルファベットよりも少ない24文字です。「えっ、そんなに少ないの」と思われる方もいらっしゃると思います。私も驚きました。ハングル語は14個の子音と10個の母音からできている表音文字で、日本人が見ると「一つの文字」に見える形が、母音と子音の組み合わせでできているそうです(ご興味のある方はお調べください)。
では、日本語はというと、ひらがなが46文字、カタカナが46文字と言われていて、表音文字だけで92文字もあるのです。ある外国人にその話をしたところ、「いや、そんなことはない。ひらがなやカタカナだけでももっとたくさんある」と言われてしまいました。おわかりでしょうか。彼が話していたのは、「ひらがなでも〇がついたり、点がついたりして読み方が変わる。さらに小さい文字もある」という点でした。「濁音・半濁音・拗音」などがさらにややこしいという主張でした。それを聞いて「なるほど」と思ったのですが、やはりその先のハードルは「漢字」という話をしていました。調べてみたところ、「表音文字」と「表意文字」が混在している言語は多くないようです。ここまで一般的に日常生活の中で両方を使っているのは「日本語」だけのようです。
そして、その漢字の数は常用漢字だけで2136文字、それ以外にも使われる文字がありますので、約3000文字と言われています。そして、その漢字の読みも「音読み・訓読み」に代表されるように、複数の読みがあります。たとえば、小学4年生で学ぶ「栄」という漢字ですが、音読みでは「エイ」、訓読みでは「さか(える)・は(える)」という読みになります。ところが「見栄」という熟語になると「ミエ」となるのです。外国の方から考えると、「これはなぜミエイと発音しないのか」という疑問が出てくるのは当たり前のようにも思えます。
ここまで書いてきて、改めて「やっぱり日本語は複雑だな」と感じています。そして、やはり言語の習得は「『学ぶ』ではなく『慣れる』」という視点が必要だとも思っているのです。そう考えると、やはり「読書」「会話」「正しい日本語に触れる」という点は大切になるでしょう。次回も「日本語の難しさ」について、触れていきたいと思っています。
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