『屋根より高い……』
2023.05.17
「さわやかな 初夏の訪れ こいのぼり」 「ゴールデンウィークの思い出を俳句にしなさい」と先生に言われてつくったような句でしょうか。小学5年生の句として考えれば、よい評価をつけてあげてもよいように思います。
私も連休中に「こいのぼり」を見ました。犬の散歩に行ったちょっと大きめの都立公園で、大きな池の上にロープが張られて、20匹程度のこいのぼりが泳いでいました。昔は男の子がいる家庭で飾られていた「こいのぼり」ですが、最近は住宅事情などもあるためか、首都圏では公園や商業施設のイベントなどで飾られることが多くなっているようです。東京タワーやスカイツリーでも、連休中に「こいのぼりイベント」が行われていました。東京タワーではその高さにちなんで333匹の「こいのぼり」が、スカイツリーでは1500匹もの「こいのぼり」が優雅に空を泳いでいたそうです。写真で見たのですが、やはり多くの「こいのぼり」が一斉に風になびいている光景は壮観ですね。面白かったのは、東京タワーでは1匹だけ「さんまのぼり」がいることです。東日本大震災復興へのエールを込めて2011年に製作され、以降毎年飾られているそうです。またスカイツリーでは、併設されている「すみだ水族館」の人気者の「チンアナゴ」と「ニシキアナゴ」がこいのぼりに交じって、空を泳いでいたとのことでした。お子様とこいのぼりを眺めるときは、そういった変わったこいのぼりを一緒に探してみるのも楽しいことでしょう。
思い出したのですが、私が小学生のときには、毎年母の実家の庭に大きな「こいのぼり」が3匹飾られていました。母は一人娘でしたので、孫が生まれてから祖父母が用意したものだと思います。私は長男ですが、下に二人弟がおりますので、「こいのぼり」は3匹だったのでしょう。当時の祖父母の家は平屋でしたので、まさに「屋根より高いこいのぼり」という光景だったのを、何となく覚えています。
「こいのぼり」の思い出はそれくらいにしておいて、俳句について書かせていただきます。最初にご紹介した俳句ですが、実は大きな問題がある句なのです。違和感を覚えた方はいらっしゃるでしょうか。 俳句には季語が必要なのはご存じのことと思います。では、この句の季語はなんでしょうか。パッと思いつくものとしては「初夏」「こいのぼり」の二つでしょう。学校では「季語は一句に一つ」と教わる場合もあるので、そこに違和感を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、正確にいうと、「季語を二つ以上使うことは絶対にだめ」というわけではないのです。二つ以上入っている句は「季重なり」と呼ばれますが、実はそのような句はけっこう多くあります。ただ、三つの季語となると、十七音のなかが季語だらけになってしまいますので、ほとんど存在しません。ところが、意外に有名な句で三つの「初夏」の季語が入っている句が存在します。
「目には青葉 山ほととぎす 初がつを」(山口素堂)
ご存じの方もいらっしゃるでしょう。
さて、では最初の「こいのぼり」の句は何が問題なのでしょうか。この句にも、実は三つの季語が入っています。「初夏」「こいのぼり」、そして「さわやかな」という言葉です。そして、この「さわやか」「さわやかな」という言葉は、実は秋の季語なのです。もちろん、日常生活では春や初夏に「さわやか」という表現を使うこともあるのですが、「別の表現の方がふさわしい」と考える人もいるようです。
日本の秋の「さわやかな気候」と言って思いつくのは、次の句ではないでしょうか。
「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」(正岡子規)
真っ赤な柿と青空のコントラスト、鐘の音の余韻、そんなところから「秋の澄んだ空気感」を感じられる句だと思います。そこが日本人の感性にマッチして、非常に有名になったのではないかと思っています。
「俳句」や「短歌」は中学入試での出題頻度は高くありません。しかし各塾の国語教材には必ず含まれる単元です。早稲田アカデミーが準拠している四谷大塚「予習シリーズ」では小学5年生で出てきます。日本人の「感性」や「情感」、「季節感」などを教えていくのには適した単元だと思いますし、そこから「一つの言葉のイメージをふくらませる」という指導に進めていくこともできる分野だと思っています。もしよろしければ、ご家庭でも俳句についてちょっとお話しいただくのもよいのではないでしょうか。
最後に、冒頭の俳句を「初夏の季語」を使って直してみると……、
「すがすがしい 初夏の訪れ こいのぼり」
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