『子どもの意識が向かう先』
2021.05.19
九州から西日本にかけては、既に梅雨入りしたとのニュースを見ました。梅雨入りの平年値は6月5日前後らしいですから、今年は20日以上も早いようです。今週に入ってからは首都圏でもお天気が良くありませんので、早々に梅雨入りしてしまう可能性もありそうです。体調を崩しやすい時期ですし、新型コロナウイルス感染症も気になりますので、皆様もお気を付けください。
最近、「協働力」について聞いたり、話をしたりという場面が増えています。高大接続改革の中のキーワードとして「多様性」「協働性」という言葉が取り上げられていますので、皆様もご存じのことかと思います。現在は「1人の天才が成果を出す社会から、能力の高い個が集まってチームとして成果を出す社会」になってきています。「協働力」、すなわち他者と協力していく力が評価されるようになってきているのだとお考えください。小学生から「協働力」を意識して育てる、というのはなかなか難しいことですが、中学校・高校などでは、そのためのさまざまな取り組みが行われています。そういった観点から学校選びを進めるのも、これからは必要なことだと思います。
さて、小学生の段階では、将来の「協働力」の土台となる「コミュニケーション能力(表現力)」と、その根底にある「他者を理解する力」を伸ばしていくのがよいと、私は考えています。「協働」するためには、「ひとりよがり」ではなく、他人の気持ちや考えを理解することがスタートラインになるはずです。
他人の気持ちを理解するのは、とても難しいことだと思います。ただ、人間は一人では生きていけないものですから、常に他者とのコミュニケーションを意識しなければなりません。
中学入試の国語では、心情をとらえる問題がよく出題されます。登場人物が置かれている背景を理解し、気持ちが動く原因となる出来事を読み取り、そしてその結果生じた人物の行動や表情・会話から気持ちを推測する、といった手順で考える問題です。低学年のうちは、「泣いている→悲しい」「笑っている→楽しい」といったように、表面に出てきた「行動・表情・会話」から気持ちを読み取ろうと考えます。そこから成長すると、同じ行動であっても、その原因となる事実によってさまざまな心情が生まれることがわかってきます。そこから、人物が置かれている状況(背景)まで考えることができるようになれば、中学入試の解法としてはOKです。
「夕日を見て泣いている小学生の女の子」の気持ちを考えるときに、「夕日を見て悲しくなった」ではおかしいでしょう。泣いているのだからつらいことがあったのだとはわかります。原因は学校であったことかもしれませんし、家庭かもしれません。ただ、つらいことがあった瞬間に泣くのではなく、一人で夕日を見ているときにこぼれてきた涙であることをとらえると、性格などを含めた背景を考えることが必要になってくるわけです。
国語で出題される「気持ちの理解・読み取り」は、ある程度一般化されたものです。ところが、実際の社会や生活における「それぞれの背景」はさまざまです。単に「置かれている状況」だけではなく、その人間の「考え方」や「価値観」を理解しなければ、本当の気持ちまではわからないはずです。自分の価値観だけで理解をしようとすると、相手の気持ちを本当の意味で理解することはできないでしょう。
私は、お子様への接し方の基本がここにあると考えています。精神的な成長過程にあるお子様に対しては、大人の価値観が当てはまらない場合が多くあります。よく言われることですが、お子様は成長に伴って、意識する対象が変わってくるものです。初めは親や先生といった「上」への意識が強いのですが、だんだんと同学年の友人やライバルという「横」を意識するようになり、最後に自分の理想や夢をかなえるためにという「下(内・自分)」を意識する、と言われています。もちろん、決まった時期にその年代のお子様の気持ちが一斉に切り替わるということではありません。
小学3年生から4年生くらいの時期では、まだ「上」への意識が強いでしょう。精神的成長が早いお子様に、「横」へ向けた意識が芽生え始めたころだと思います。
「勉強」に対してのモチベーションを上げることを考えるときにも、この点を理解して接することが必要です。「自分のためなのだからがんばりなさい」という言葉は、勉強することが将来の自分のためになる、ということを教えるためには必要な言葉です。ただ、意識が「上」や「横」に向いているお子様にとっては本質的に理解できるものではないと思います。その言葉を聞いたからといって「よし、頑張ろう!」という気持ちまでには至らないのが普通です。それよりも、「勉強すること」「テストを受けること」自体を親や先生に褒められることの方が、勉強に対するモチベーションが上がるのです。
子どもなりの価値観を理解して接することで、お子様のモチベーションを高めることができるとお考えください。
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