四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『ペンを借りられませんか?』

2019.04.17

「筆記用具を忘れたので、ペンを借りられませんか?」という表現は、日本語を学んでいる外国人にとって、とても難しいようです。以前、外国人向けの日本語学校で教えている先生と会話したときの話です。


ペンを貸してほしいとき、日本語ではいくつかの表現があります。


「ペンを貸してください」
「ペンを借りられますか」
「ペンを借りられませんか」


いずれも「ペンを貸してほしい」という意味ですが、微妙にニュアンスが違うのは日本人であれば理解できることでしょう。自分の要望を直接伝える「貸してください」という表現よりも、「借りられますか」と相手に「お伺い」を立てる表現の方が、「丁寧」な感じを与えます。


しかし、ここで「借りられませんか」という、日本人的には「より丁寧」な言い方になると、とても難しくなってくるのです。文法的には「借り(動詞)」「られ(可能の助動詞)」「ませ(丁寧の助動詞)」「ん(打消しの助動詞)」「か(疑問の助詞)」となります。このままの意味を「直訳(?)」すると「借りることはできない」ということを確認するような表現になってしまいます。もしくは「借りられないのですか?」という少し相手を非難するようなニュアンスにもなってしまうのです。


「ペンをお借りするというのは、とても申し訳ないことですので、借りられないのはいたしかたのないことだとは思うのですが、なにとぞ貸してください」というようなニュアンスを一言で言い表している表現なのだと思います。ある意味とても日本的な表現だと思うのですが、この辺を理解するのが、外国の方にとっては難しいのでしょう。


外国語を習得するときには「文化」も理解しなければならない、という話を聞いたことがあります。単純に単語や文法を理解するだけではなく、その背景となる文化も理解していなければ、本当の意味で言語を使いこなせるようにならないというような内容でした。外国人にとって、日本語は間接的であったり、回りくどく感じられたりする表現が多いようです。また「省略」が非常に多いのも日本語の特徴です。


特に日本語の会話では、相手との関係性を基盤にして言葉が使われることが多くあります。「ペンを借りられますか」という表現でも、正確には「私は(あなたから)ペンを借りられますか」というように主語を補うことが必要でしょう。聞いている相手が「どのようにとらえるか」という一種の「信頼関係」の中から表現が選ばれている、そんな風に感じています。


夜、男女が散歩している場面で、男性が「I LOVE YOU」と言った英語表現を、「我、汝を愛す」と訳した学生に対して、「日本人はそんなことは言わない。『月がきれいですね』と訳せ」と教えた英語教師の話を聞いたことがあります。四国の松山で英語を教えていた当時の夏目漱石だということでした。

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