『むずかしいことを簡単に教える』
2019.09.06
以前にも書かせていただいたことがあるのですが、今回から何回かにわたって、私自身が授業を進めるうえで「心掛けていること」をご紹介していきたいと思います。小・中学生を指導するにあたっては、高校生以上の生徒を教えるよりも、いろいろなことに留意しなければなりません。精神的な成長過程にある小・中学生に対しては、大人にとって「よい」とされている学習方法・指導方法が必ずしもマッチするわけではないので、そこに合わせた指導が必要になるのです。書かせていただくのは「講師として心掛けていること」ではありますが、ご家庭でお子様の宿題などをご覧になる際のヒントにもなると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
進学塾で扱っている学習内容は、お子様の成長段階を考えると、「むずかしい」内容になります。大人にとっては簡単に思えることでも、それぞれの学年のお子様にとっては、高度なものです。それを教えるときには、授業に参加している生徒の視点や考え方に合わせて、なるべく噛み砕いてわかりやすく教えることが必要になります。当たり前といえば当たり前のことなのですが、それが意外に難しいのです。ともすれば「簡単なことをむずかしく教える」ということにもなりかねません。中学受験のためのテキストに載っている解説や模範解答は、お子様にとっては「むずかしく」感じることが多いはずです。もしそれを読んで完璧に理解できるのであれば、極端な話、塾に通って「教わる」必要はないわけです。ですから、テキストに書かれている通りに教えてしまうと「むずかしいことをむずかしく」教えていることにしかなりません。お子様が読んだだけでは、きちんと理解できないという内容を、「わかりやすく」教えるという点が、授業を行う際に心掛けていることのひとつです。
さて、ではどのように教えれば「わかりやすく」もしくは「生徒にとって簡単に」なるのでしょうか。一番大切なのは、小・中学生の生徒の内的状態を理解することだと、私は思っています。学習する単元に関して、どのような知識を持っており、どの切り口から説明をすれば「わかる」のかを考えることから授業の準備を進めています。細かい点ですが、指導する際に使う言葉などにも気を付けなければなりません。
たとえば、小4の国語で主語・述語・修飾語が出てきます。一応「文節」という言葉も扱っているので、生徒たちは聞いたことがある言葉ではあるのですが、「どの文節が主語を修飾しているかを考えなさい」というような発問をしてしまうと、「文節ってなんだっけ……?」となる生徒も出てくるわけです。算数でいえば「連除法」という言葉があります。公倍数や公約数を求めるときに使う、わり算の筆算を逆さまにしたような計算処理方法です。テキストには「連除法」という言葉も出てくるのですが、この言葉自体を覚えさせる必要はありません。「この問題では公倍数を求めるのだから『連除法』を使いなさい」と表現しても、頭の中では「レンジョホウ……なんだったっけ???」となってしまう小4生も多いはずです。
一方で、クラスや生徒によっては、一段階上の言葉をわざと使う場合もあります。これも生徒の状況を把握してのことですが、思考力や語彙力を高めるために、もしくは「ちょっとむずかしいことを教えてもらった」という気持ちにさせるために、あえてその学年としては難しい言葉を使うこともあるとご理解ください。
ご家庭でお子様を指導する際も、ぜひ「むずかしいことを簡単に」という点に関しては、心掛けていただければと思います。保護者の皆様であれば、テキストや解答の解説を読めばご理解いただけるはずですが、それをそのままお子様にお伝えいただいても、なかなかうまくいかないことが多いはずです。どのように「噛み砕く」とわかってくれるのか、そんな風に考えることで、お子様との距離も縮まると思います。
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