『口を開くな!』
2019.09.25
早稲田アカデミーの授業は「私語のない緊張感のある授業」となっています。とは言っても、生徒全員がシーンとなっているわけではありません。講師のコントロールのもと、笑い声が出る場面もありますし、活発に手が挙がって発言する場面もあります。「私語」については講師がコントロールしているのですが、授業前や授業中でもちょっと気を抜いたすきに、「私語」「おしゃべり」が出てしまうことがあります。そんなときにはやはり厳しめに注意をする(叱る)ことになります。その際の言葉ですが、以下のようなものがあります。
① 口を開くな! ② 口を開かない! ③ 口を閉じろ! ④ 口を閉じなさい! ⑤ 口を閉じる!
少し国文法的に解説させていただきます。文法の解説が今回のテーマではありませんので、読み飛ばしていただいてかまいません。
①→開く(動詞・終止形)+な(禁止の意味の終助詞) ②→開く(動詞・連用形)+ない(打消しの意味の助動詞・終止形) ③→閉じる(動詞・命令形) ④→閉じる(動詞・連用形)+なさる(補助動詞・命令形) ※「なさいませ」の省略形 ⑤→閉じる(動詞・終止形)
ここで①と②は「開いてはいけない」という意味の表現ですし、③~⑤は「閉じるようにしなさい」という表現です。そして、文法的に考えると面白いのは②と⑤なのですが、おわかりになりますでしょうか。それ以外の表現に関しては、命令・指示・禁止・注意などの意味が文法的にもはっきりしているのですが、②と⑤は「終止形」なので、文法的に考えるとそこには命令・指示的な要素は含まれないのです。しかし、その言葉を発した時の状況や、言葉のニュアンス・表情などで、命令・指示的な要素が加わります。ここが日本語の難しいところでもあり、面白いところでもあると、私は個人的に思ったりもするのですが……。
私は小学生の授業のとき、この⑤の表現をよく使います。私自身、身体や声が大きいこともあり、小学生の生徒からは「怖い」と思われがちです。そんな私が「口を開くな!」「口を閉じろ!」と大声を出せば、生徒たちは萎縮してしまうでしょう。授業前に教室がざわついているような場面では、口に人差し指を当てて「はい!口を閉じる。」とやってみます。
もうひとつ、よく使うのが「口を閉じよう!」という表現です。またまた国文法になってしまいますが、「う・よう」という助動詞は、「推量・意志・勧誘」という意味を持っています。ここでの表現は広い意味での「勧誘」になるのですが、実際には命令・指示的に使っているわけです。
さて、保護者の皆様はどんな風にお子様に注意をしたり、指示をしたりしていらっしゃいますか。ここまででおわかりだと思いますが、文法的な命令形は非常に「強い」表現となります。言葉をかけられた受け手の側も傷ついてしまう可能性がある表現です。また、「~してはいけない」という禁止の表現も「強く」受け止められる場合があります。そんな点をちょっと頭の中に置いて、お子様に接していただければと思います。
また、「貼り紙」を貼ってお子様に注意を呼びかけるような場合もあるでしょう。その際にも注意が必要です。たとえば、冷蔵庫に「開けたらすぐに閉めなさい!」という貼り紙があったら、お子様はどのように感じるでしょうか。冷蔵庫を開けるたびに、お母様に叱られているような気がするのではないでしょうか。注意する(叱る)言葉は、声で伝えられるよりも、文字になっている方が冷たい印象を与えるものです。
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