『小学生の見えている範囲』
2021.09.03
9月に入りました。まだ残暑が厳しい日もありますが、半袖では肌寒さを感じる日も増えてきています。季節の変わり目、油断をすると体調を崩してしまいがちですので、お気をつけください。
前回の記事にも書かせていただきましたが、早稲田アカデミーでは9月から対面授業をいったん停止して「双方向Web授業」へ切り替えております。また、家庭学習でも集中して取り組んでいただけるよう、オンライン自習室「早稲アカRoom」の校舎単位での開設を進めております。ぜひご活用ください。
さて今回は、私が小学生の指導をする上で気を付けている大きなポイントの一つ「小学生の視野や視点を理解して接する」という点について書かせていただきます。ご家庭でお子様と接する際のヒントにもなると思いますので参考にしてみてください。
大人と比較した場合、当たり前のことですが、小学生の見ている視野・視点は広くありません。たとえば、計画性という点においても、一週間先のことすらはっきりとは見えていないのが普通です。夏休みの宿題を8月の終わりになって、あわててやったという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
中学受験へ向けた学習を通じて、この視野を広げていくことは、精神的な成長を促すことにもつながり、結果として成績にも大きな影響がでてきます。そのため、中学受験の科目学習において、広い視野を身に付けることが必要なのです。私はよく「全体を見なさい」とか「全体像をとらえてから考えなさい」と生徒を指導することがあります。広い視野を持つということは、「全体をとらえる意識を持つ」ことから始まると言ってもよいかもしれません。
国語では文章の全体が見えていないと、要旨や主題といった大切な問題には対応できません。説明文で文章の初めに出てきた具体例に気を取られて、話題や筆者の結論部分を読み違えてしまう生徒がいます。物語文でも登場人物の背景がとらえられていないために、心情がつかみきれないということもあります。もちろん、読解力という要素につながる部分でもあるのですが、その根底には「全体をとらえる力」が未熟だということになります。
算数でも、複雑な図形の問題などは全体をしっかりと見なければ、補助線を必要な位置にひくことはできません。また難問を解くためには、問題を見て「解答までの過程」をイメージするという感覚が必要になってきます。これも「全体をとらえる」という意識が影響してくる部分です。
理科・社会でも「全体」を把握してから、「細部」の学習に進むことが大切です。以前、歴史が苦手な生徒がいました。毎週、テキストに出てくる人名や語句、年号などはがんばって覚えてくるですが、テストではなかなか点数が上がってきません。歴史の学習方法についてアドバイスをするための面談で、「平安時代の前は何時代?」と問いかけてみたところ、首をかしげてしまいました。細かい知識を覚えることに注力し、大きな時代の流れをつかんでいなかったので、覚えた知識がふわふわとしたままできちんと定着しておらず、使いこなせるというところまでにはなっていなかったのです。地理でも同じことが言えるでしょう。山脈や川の名前を覚える前に、日本地図がきちんと頭の中に入っていなければ、せっかく覚えた知識が定着しないはずです。
細部に注意を払うことも、細かい点でのミスをしないようにすることも、もちろん大切なことではあるのですが、特に低学年から中学年においては、「全体を見る、広く把握する」というポイントを意識して身に付けさせるように促すことが重要なのです。
計算ミスなどの単純なミスで失点をしてしまうのは、非常にもったいないことです。しかし、その点にばかり気がいってしまうと、お子様自身の視野がせまくなってしまう可能性が出てきます。計算ミスをしないようにと気にすることで、そこにばかり注意がいってしまい、大きな視野で見ることができなくなってしまうわけです。お子様のタイプにもよるのですが、小学4年生くらいまでは、「細かいミスはそれほど気にしないでください」と申し上げるようにしています。
さらに、視野を広く持つことができるようになると、視点を切り替えることができるようになってきます。 難関中学で出題される入試問題の場合、解答に結びつく「切り口」をしっかりと考える必要があります。どの方向で考えていけばよいのか、どのような図を書けばよいのか、をまず考えて解き始めるわけです。しかし、合否を決めるような問題(その問題を解けた生徒が合格に近づくような問題)の場合、その「切り口」がすぐに思いつくわけではありません。ひとつの方法を考えてみて、それではうまくいきそうにない場合、新たな方向で考えることができるかというのは、とても重要なポイントになってきます。小学生にとって、この「考え直す」ということは、実は難しいことなのです。自分で一度考えついたことを捨てて、もう一度新しい視点で考え直すというのは、ある程度の訓練も必要ですし、精神的な成長も必要です。そしてその根底には、やはり「広く問題を見る」という視点も必要なのです。視野が広くなってくれば、自分が一度持った視点を切り替えて、「考え直す」こともできるようになってきます。
余談ですが、私は小学生(特に小学4年生まで)に対して、テストの解き直しはあまりすすめていません。ミスが原因で間違えたものであれば解き直すことで正解にたどり着くわけですが、そもそも考え方が間違っていた場合、自分で解き直してもなかなか正解まで行き着かないはずです。一度考えた自分の解き方にこだわってしまい、新しい方向に思考が向かないのが普通の小学生なのですから。それよりも、テストに関しては解説授業を受けて、「そうか、なるほど!わかった!」という気持ちになった方が次につながるはずです。
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