『日本語は難しい……』
2023.07.05
日本語を学んでいる外国人と話をすると、「日本語はとても難しい」と言われることがよくあります。表音文字(かな)と表意文字(漢字)を組み合わせて使う必要がある、同じことを伝える場合でも表現の仕方が複数ある、敬語の考え方が複雑、などなど。やはり他の言語と比べると、違いが多いようです。今回はそんな「日本語の難しさ」の一つの例をご紹介します。
「筆記用具を忘れたので、ペンを借りられませんか?」という表現も、外国人が日本語を学ぶときに、とても難しいと感じる表現の一つだそうです。外国人向けの日本語学校で働いている先生に教えていただきました。
ペンを貸してほしいとき、日本語ではいくつかの表現があります。 「ペンを貸してください」 「ペンを借りられますか」 「ペンを借りられませんか」
いずれも「ペンを貸してほしい」という同じ意味ですが、微妙にニュアンスが違うのは日本人であれば理解できることでしょう。自分の要望を直接伝える「貸してください」という表現よりも、「借りられますか」と相手に「お伺い」を立てる表現の方が、「丁寧」な感じを与えます。相手の意思を確認するという表現のために、そういうニュアンスが付加されるのだと、私は考えています。
しかし、ここで「借りられませんか」という、日本人的には「より丁寧」な言い方になると、とても難しくなってくるのです。文法的には「借り(動詞)」「られ(可能の助動詞)」「ませ(丁寧の助動詞)」「ん(打消しの助動詞)」「か(疑問の助詞)」となります。このままの意味を「直訳(?)」すると「借りることはできない」ということを確認するような表現になってしまいます。もしくは「借りられないのですか?」という少し相手を非難するようなニュアンスにもなってしまうのです。
「ペンをお借りするというのは、とても申し訳ないことですので、借りられないのはいたし方のないことだとは思うのですが、何卒貸してください」というようなニュアンスを一言で言い表している表現なのかもしれません。ある意味とても日本的な表現だと思うのですが、この辺を理解するのが、外国の方にとっては難しいのでしょう。
外国語を習得するときには「文化」も理解しなければならない、という話を聞いたことがあります。単純に単語や文法を理解するだけではなく、その背景となる文化を理解していなければ、本当の意味で言語を使いこなせることにならないというような話でした。外国人にとって、日本語は間接的であったり、回りくどく感じられたりという表現が多いようです。また「省略」が非常に多いのも日本語の特徴です。
特に日本語の会話では、相手との関係性を基盤にして言葉が使われることが多くあります。「ペンを借りられますか」という表現でも、正確には「私は(あなたから)ペンを借りられますか」というように主語を補うことが必要でしょう。聞いている相手が「どのようにとらえるか」という一種の「信頼関係」の中から表現が選ばれている、そんな風に感じています。
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