『切ない……』
2023.10.27
11月3日に実施される「全国統一小学生テスト」では、各学年の国語で、毎年必ず「心情理解」に関する問題が出題されています。出題文中の登場人物の心情を考えさせる問題がほとんどです。事前の準備をお考えの方は、この点にしぼって対策をしてみてもよいかもしれません。
小学3年生では、ちょうどこの時期に物語文の中で「気持ちを理解する」「気持ちの変化をつかむ」という学習をしてきています。まずは、自分でも何となく感じたことのある気持ちを正しく言葉にする、そのための表現を学ぶというところからの学習になっています。そして、小学4年生以上になると、自分では感じたことのない心情も理解できるようになることが必要になってきます。
数年前の開成中学で「やるせない」の意味を答えさせる問題が出されたことがあります。小学生にとっては普段の生活で使うレベルの語彙ではありません。「なんか、やるせないなぁ」なんて言っている小学生がいたら、それこそ「やるせない」気分になってしまいます。こういった気持ちを表すことば(心情表現)は中学受験の国語においてはとても大切です。が、教えるのはなかなか難しいのです。
すこし複雑な心情表現として、「心細い」「ほほえましい」「切ない」という言葉を例にとってみます。小学3年生を対象とした場合、この中で一番教えやすい言葉と教えにくい言葉はどれだと思いますか。お子様が実際に感じたことがある、という視点で考えてみるとわかりやすいと思います。
「一番教えやすい」のは、「心細い」です。「○○さんが、学校から家に帰ったら誰もいなかった。お母さんはどこに行ったかわからない。だんだん外は暗くなってくる。家の中は電気もついていなく薄暗くなってきた。○○さんは、ぽろぽろと涙をこぼした。さて、このときの○○さんの気持ちを表す言葉を考えてみましょう」こんな形で問いかけます。生徒たちからは、「悲しい」「さびしい」などの答えが返ってくることが多いです。「涙」という言葉から連想される心情表現です。「悲しいはちょっと違うかなぁ。さびしいは近いけれど……」そんな言葉を使いながら、「不安」という言葉を引き出します。そして「不安でさびしいようなときに使う言葉」として、「心細い」を教えるわけです。
自分も感じたことがある気持ちですから、具体的なイメージを持ちやすいのです。実際に、そんな気持ちを感じたことがあるかを聞くこともあります。よく出てくるのは「迷子」になったときなどですが、小学生の生徒であれば、多かれ少なかれ「心細い」経験をしたことがあるので、「すっと」入っていきます。
一方で、「一番教えにくい」のは、「ほほえましい」です。小学3年生くらいでは、自分で誰かを「ほほえましい」と感じた経験は普通ないでしょう。まだまだ、大人から「ほほえましい」と思われる年代なのですから。「ほほえましい」という表現は、自分よりも年下の対象を見て感じる気持ちです。ある意味、「大人の感情」ということができます。小学3年生であれば、赤ちゃんを見てもせいぜい「かわいい」と感じるのが普通です。「ほほえましい」という「大人の感情」を理解させるのは、まず視点を大人にするところから始めなければなりませんから、とても難しいと感じています。
しかし、中学受験の国語の教材には「一所懸命に○○をやっているわが子を見てほほえましく感じている」といったような記述が模範解答に書いてあることがあります。日常生活の中で、小学生が感じる感情ではありませんが、「こういう場面ではこういう感情を抱くものだ」と教えることも大切になってくるわけです。自分では感じることがない心情でも、理解するだけではなく、表現できるように自分の「語彙」として記憶しておくことも中学受験の記述問題を解くためには必要なのです。小学生が日常生活の中で使わない言葉であったとしても。
「切ない」というのも、そういう意味では難しい感情です。小学生で「切なさ」を感じている子どもがいたら、それはそれでやはり少し違和感がある気がします。
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