『「進歩」している感覚』
2020.10.14
10月19日(月)にWeb公開させていただく『Onlineクローバーセミナー』でもお話しする予定なのですが、「やる気をつくるための4つの感覚」というものがあります。以前の記事(2017年10月)で詳しく書かせていただいておりますので、よろしければあわせてお読みください。
さて、中学受験へ向けたやる気を育てるという観点で考えると、その4つの中で最も難しいのは「その行動によって自分自身が進歩している感覚」を持つことだと私は考えています。
中学受験へ向けたカリキュラムを進めていくときに、何をもって「進歩」を感じることができるかというと、やはり成績として出てくる数字になるのではないでしょうか。特にテストごとに出てくる「偏差値」や「順位」が伸びていれば、「進歩」を実感することができるでしょう。しかし、実際にはそうはいかないのです。「偏差値」も「順位」もテストを受験している他の生徒との比較の中で出てくる数値です。同じように塾の授業を受けて、同じ宿題をやっている生徒たちとの比較ということになりますので、頑張ったからといって、すぐには数字に反映されないものです。この点においては、他の習い事などと同じように考えることはできません。
たとえば、スイミングクラブに通っている場合、ある程度練習を頑張れば、記録会での「タイム」は伸びてくるはずです。タイミングの差はあるとしても、ある程度の期間が経てば、確実に「タイム」は伸びていくことでしょう。これは「過去の自分との比較」だからなのです。ここにお子様に「進歩」を感じさせるヒントがあります。
お子様との接し方についてご相談いただいたときに、私は「過去のお子様の状況と比較して評価する(ほめる・しかる)」ということをおすすめしています。半年前にはできなかったことができるようになっていれば、そこをほめてあげることで、お子様は「進歩」を感じることができ、「やる気」も高まるはずです。さらには、お子様を伸ばすために必要な「自信」や「自己肯定感」にもつながります。
以前、小学校3年生の算数の授業で、フリーハンド(定規を使わずに)でまっすぐな線を描くのが苦手な生徒がいました。ノートに線分図を描くときに、どうしても曲がってしまって、何度も消して書き直していました。その生徒はご家庭でも練習したようです。ある授業のとき、少しうまくなっていたので「図を描くのがうまくなったね」とほめてあげました。少し前のノートのページと比べて、「このときよりもずっとよくなっている」と話をしたところ、とてもうれしそうでした。そこから算数がとても好きになってくれました。それにともなって成績も向上していきました。
「うまくなった」と書きましたが、実はその時点でも標準的なレベルまでは到達していませんでしたし、クラスの中にはもっとうまく描くことができる生徒は多くいました。そこで「以前よりもよくなっている」ことを評価せずに、他の生徒と比較をして「まだ足りない」と評価をしてしまえば、きっと悲しそうな表情になったことでしょう。
学習の仕方などに関しては、以前と比較をして「悪くなって」いる場合があるはずです。家庭学習のスタートの時間について、以前は時間になるとすぐに机の前に座っていたのに、最近はなかなか始めない……小3から小4になると多くの保護者の皆様が感じられる悩みです。このケースでは「前はできていたのに……」とお子様に指摘をして、なぜ今できなくなっているのかをご一緒に考えていただくのがよいと思います。
偏差値は他者との比較と書かせていただきましが、そういう意味では、入学試験もライバルとの競い合いになります。その点だけを考えると「他者と比べて」という観点も必要にはなりますが、それは大人の視点です。特に小3~小4の発達段階では、友だちやライバルを意識するよりも、親や先生という「上」の存在への意識が強い時期です。ですから「誰かと比べられて自分の劣っている点を指摘される」ということは、自分のすべてを否定されてしまったようにとらえてしまう危険性もあるのです。
お子様は日々成長していますから、過去の状況と比較をすれば、ほとんどの場合で「ほめてあげる」ことができるでしょう。「子どもはほめて育てた方がよいという話をよく聞くのですが、なかなかうまくできなくて……」というようなご相談もよく受けるのですが、「過去のお子様自身と比較をする」という視点で接していただければ、お子様が成長していることがお分かりいただき、きっとたくさんほめてあげることができると思います。
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