『転がる石に苔は生えない』
2024.10.04
「隣の芝生は青い」ということわざを耳にすることがあります。 いつ頃からいわれている言葉なのかを考えてみたことがありますか。日本のことわざは「先人の知恵」から生まれたものが多く、かなり昔からいわれているようなイメージがあるのですが、ふと考えてみると「庭に芝生が生えている」というのは、江戸時代や明治時代の日本のイメージではありませんよね。そもそも、日本の庭で芝生を植えているところはそんなに多くはないと思います。
ご存じの方も多いと思いますが、この言葉は英語のことわざが翻訳されたものなのです。もとの表現は「The grass is always greener on the other side of the fence.」となります。ほぼ直訳に近い表現だとおわかりいただけると思います。
実は英語の表現がもとになっている「ことわざ・慣用表現」は意外に多いのです。日本人は他国から入ってきた文化や概念を日本語に翻訳して理解するという考え方をすることが多い民族だと聞いたことがあります。江戸時代の「解体新書」の例を出すまでもないと思いますが、現代までさまざまな学問を日本語に翻訳し理解するという学び方をしてきているのだそうです。
有名なところでは「時は金なり」という表現は「Time is money」の訳語ですが、この言葉はベンジャミン・フランクリンが言った言葉だといわれています。また、慶應義塾のシンボルマークや開成学園の校章のもととなっている「ペンは剣よりも強し」という言葉は、福澤諭吉の言葉だと思われている場合もあるようですが、これも「The pen is mightier than the sword」という英語表現からの訳語です。
「一石二鳥」という四字熟語も英語のことわざから訳されたものだというのを知って驚いたことがあります。四字熟語の多くは中国伝来のものが多いので、この言葉にも漠然とそんなイメージを持っていたのですが、実は「Kill two birds with one stone」という英語がもとのようです。
「転石苔を生ぜず」という言葉は、「A rolling stone gathers no moss」が訳された言葉です。「転がる石には苔が生えない」という口語で使われることもありますが、この言葉はまったく逆の二通りのとらえ方があることをご存じでしょうか。
「職業や住居を転々と変える人は、地位や財産を得ることができずに大成しない」 「常に活発に行動している人は、古い慣習などにとらわれずに、時代に取り残されることがない」 というようなとらえ方です。「苔が生える」という点をポジティブにとらえるか、ネガティブにとらえるかの違いということになるようです。よくいわれているのが、イギリスでは前者のようなとらえ方がされ、アメリカでは後者のようなとらえ方がされるという話なのですが、最近ではイギリスでもポジティブにとらえる人が多いようです。「ローリングストーンズ」というロックバンドの名前の由来にもなっている言葉ですが、彼らはイギリス出身のバンドなので、「風来坊・漂流者」のようなイメージで命名したという話のようです。また、数年前にノーベル文学賞を受賞したアメリカのロック歌手の代表曲もこの言葉が使われていました。
さて、日本ではどうでしょうか。「転石苔を生ぜず」の類義語を調べてみると「石の上にも三年」が出てきます。日本では「転石=よくない」「苔がはえる=よい」というイメージで使われることが多いようです。「落ち着いてひとつのことを成し遂げる」ということを評価する言葉として使われているようです。 以前、小5の授業で「転石苔を生ぜず」の意味を考えさせてみたことがあります。そのときには「苔は生えない方がよい」というアメリカ的な意見が生徒の大勢を占めました。「石の上にも三年」と同じ意味であることを伝えたのですが、ある生徒が「石の上に三年も座っていたら疲れちゃう」と言ったのが印象的でした。
「ことわざ」や「語句の意味」などについては、少しふくらませてお子様とお話しいただくと、おもしろい発見があると思います。
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