『心情表現を使いこなせるように』
2024.10.11
小学校3年生の国語学習において、二学期の最重要テーマは、「気持ちを理解する」「気持ちの変化をつかむ」です。主人公だけではなく、登場人物の「気持ち」をきちんと正しく理解していくように単元学習を進めていきます。初めのステップとしては、自分でもなんとなく感じたことのある気持ちを正しくとらえて、言葉にするということが必要になります。基本的に物語文では「気持ち」を表す言葉が直接書かれていることは多くありません。人物の行動や表情から、ときには情景描写などから、気持ちを推測していくことになります。そして、大切なのはその「気持ち」を的確に表現するという点です。そのためには心情を表す表現を身につけなければなりません。さらに、小学校4年生以上になると、自分では感じたことのない心情も理解し、表現できるようになることが必要になってきます。
数年前「やるせない」の意味を答えさせる問題を見ました。小学生にとっては普段の生活で使うレベルの語彙ではないでしょう。「なんか、やるせないなぁ」なんて言っている小学生がいたら、それこそ「やるせない」気分になってしまいます。こういった気持ちを表すことば(心情表現)は中学受験の国語においてはとても大切です。が、教えるのはなかなか難しいのです。
すこし複雑な心情表現として、「心細い、ほほえましい、切ない」という言葉を例にとってみます。小学校3年生を対象とした場合、この中で一番教えやすい言葉と教えにくい言葉はどれだと思いますか。お子様が実際に感じたことがある、という視点で考えてみるとわかりやすいと思います。
正解は(一番教えやすいのは)、「心細い」です。「○○さんが、学校から家に帰ったら誰もいなかった。お母さんはどこに行ったかわからない。だんだん外は暗くなってくる。家の中は電気もついていなく薄暗くなってきた。○○さんは、ぽろぽろと涙をこぼした。さて、このときの○○さんの気持ちを表す言葉を考えてみましょう」こんな風に問いかけます。生徒たちからは、「悲しい」「さびしい」などの答えが返ってくることが多いです。「涙」という言葉から連想される心情表現です。「悲しいはちょっと違うかなぁ。さびしいは近いけれど……」そんな風に声をかけながら、「不安」という言葉を引き出します。そして「不安でさびしいようなときに使う言葉」として、「心細い」を教えるわけです。
自分も感じたことがある気持ちですから、具体的なイメージを持ちやすいわけです。実際に、そんな気持ちを感じたことがあるかを聞く場合もあります。よく出てくるのは「迷子」になったときなどですが、小学生の生徒であれば、多かれ少なかれ「心細い」経験をしたことがあるので、「すっと」入っていきます。
一方で一番教えにくいのは、「ほほえましい」です。小学校3年生くらいでは、自分で誰かを「ほほえましい」と感じた経験は普通ないでしょう。まだまだ、大人から「ほほえましい」と思われる年代なのですから。「ほほえましい」という表現は、自分よりも年下の対象を見て感じる気持ちです。ある意味、「大人の感情」ということができます。小3であれば、赤ちゃんを見てもせいぜい「かわいい」と感じるのが普通です。ですから「ほほえましい」という「大人の感情」を理解させるのは難しいのです。
しかし、中学受験の国語の教材には「一生懸命に○○をやっているわが子を見てほほえましく感じている」といったような記述が模範解答に書いてあることがあります。普段生活をしている中で、小学生が感じる感情ではありませんが、「こういう場面ではこういう感情を抱くものだ」と教えることも大切になってくるわけです。自分では感じることがない心情でも、理解するだけではなく、表現できるように自分の「語彙」として記憶しておくことも中学受験の記述問題を解くためには必要なのです。小学生が日常生活の中で使わない言葉であったとしても。
「切ない」というのも、そういう意味では難しい感情です。小学生で「切なさ」を感じている子どもがいたら、それはそれでやはり少し違和感があります。
- 2024.10.11 『心情表現を使いこなせるように』
- 2024.10.09 『ノーベル賞が発表されています』
- 2024.10.04 『転がる石に苔は生えない』
- 2024.10.02 『共感するのは難しい』
- 2024.09.27 『天高く馬肥ゆる秋』